平成27年7月9日(木)

南シナ海をめぐる米中の動向!

飯田将史先生

飯田将史先生

防衛省防衛研究所・主任研究官

講話概要

 中国がいま海洋進出を行っている背景には、(1)旧ソ連、ベトナムなど陸地の国境線問題がほとんど解決した。(2)経済発展により、資源・エネルギーの安定的確保が必要になった。(3)台湾を含め、尖閣列島、西沙諸島、南沙諸島は、失われた領土という認識がある。という3つのものがある。
 習近平が2012年10月に主席になり、その直後の中央政治局集団学習会で、「核心的利益は犠牲にはしない」。2013年7月の学習会では「海洋強国の建設、海洋権益を断固として守る」と表明している。  近年、南シナ海で中国のプレゼンスが高まっている。そもそも1950年代から「九段線」なるものを地図上に示し、その海域の島嶼は中国のものであると主張してきた。西沙諸島では当時の南ベトナムと中華人民共和国が対峙していたが、ベトナム戦争中の1974年に中国軍が侵攻して諸島全体を占領。現在も中国の実効支配下にある。また南沙諸島においては、フィリピンと領有権を争っている。1995年に中国がミスチーフ礁に建造物をつくり支配、2013年には、フィリピン海軍がスカボロー礁近くに中国の漁船8隻が停泊しているのを発見し拿捕したのを受け、中国の監視船が現場に急行、フィリピン海軍の進行を阻止し、睨み合う状況となった。同年9月3日には、中国が約30個のコンクリートブロックを設置していることをフィリピン政府が発表した。現在7つの礁を事実上支配し、構造物を建築している。セカンド・トーマス礁では、中国に奪われないように、わざと座礁させた船舶にフィリピン海兵隊が常駐し管理しているが、中国は、補給活動を妨害するなどしており、緊張状態が続いている。
 演習によるプレゼンス強化も行なわれている。2010年には北海艦隊の艦艇6隻が南シナ海で訓練実施。 2011年7月には南海艦隊が大規模な島嶼奪回演習を実施。2014年2月には、南海艦隊がスンダ海峡を抜けてインド洋へ展開した。スンダ海峡は、マラッカ海峡が利用できなくなった場合の中国にとっても重要なシーレーンである。
 第2列島線内の海域において、アメリカ軍が自由に侵入して作戦を展開することを阻害する戦略(A2AD戦略)も行なわれている。具体的には、2009年3月に米艦艇「インペッカブル」に対する妨害行動が挙げられる。調査中の米海軍海洋調査船インペッカブル(USNS Impeccable)を取り囲み、立ち退きを要求して航行妨害を行った。アメリカ側は「米艦船は公海上を規則にのっとって活動していた。中国に国際法を順守するよう求める」と述べた。実は、海南島に中国の原子力潜水艦の地下基地があり、潜水艦の活動が衛星から見えないため、インペッカブルが見張っていたのだろうと推測される。この他にも、南シナ海でアメリカ巡洋艦「カウペンス」に対する妨害行動(2013年12月)やP-8哨戒機に対する6mまで迫る近接飛行(2014年8月)なども行なわれている。A2AD戦略は、台湾有事のための戦略だと言われている。
 アメリカは、中国に対して九段線の国際法上の根拠を否定。東南アジア諸国への威圧を批判し、埋め立ての即時中止を要求している。日本に対しては、尖閣諸島に対するアメリカの防衛義務を明言。フィリピンに対しては、防衛協力協定を結び、フィリピンと中国との紛争を国際仲裁裁判所へ提訴することを支持している。
ご案内状(pdf)

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